2007-10-01から1ヶ月間の記事一覧
(はぁぁ? 何を言っとんじゃい?) あの事務所からここまで、車を使ったところで五分はかかる。 先ほどの通話を終えてから三分も経ってない。 彼女の言葉を信じはしなかったが、慎重な男は警戒しながら部屋のドアを開け、 マンションの通路に出て階下をのぞ…
「・・・お姉ちゃん、あの小娘のツレかなんかか? ・・・真二は 死んだンか?」 男は冷静になった。 自分を慕っていた真二を殺された怒りもあったが、狙われた原因を特定できたこと、 相手が対立組織でなければ、たいしたことはできまい、という予想が男を落…
真二の、うろたえた声を聞く男の背筋に寒気が走る。 「おぃ、今の音は何じゃ!? エモノは持っとるな? 近場の奴を応援に行かす、 それまで持ちこたえとけ! 」 (何じゃ? ただのクスリでおかしくなった奴ちがうんか? 対立組織? まさか? こんなふざけた…
ありえない・・・、 携帯ならともかく、この電話は身内しか知らない筈だ。 着信メッセージにも例の声が入っている・・・。 「ざけおって・・・!」 ・・・不意に携帯が鳴った。 何処の誰じゃあ、クソッタラァ! 喉まで用意した言葉だったが、今度は発信者が…
「あ? なんじゃい、お姉ちゃん、 この電話、誰に聞いたんじゃ? ・・・お?」 ツーッ、ツーッ、ツーッ・・・ 通話はすぐに切れてしまったようだ。 「先輩、何すか?」 男は不機嫌そうに携帯を閉じる。 「分らん、『お客さん』かものぉ、ワシんとこには直接…
「先輩! ヤベェっすよ、テレビ見ました? あの事件の事が・・・」 先輩と呼ばれた男は、ゴキゴキ首を鳴らしている。 答えるのもめんどくさそうだ。 「ボケェ、真二ぃ・・・、 証拠はな~んも残しとらんじゃろぉ? どんだけニュースになろうと、ばれやせんて…
湖の岸辺では、 あわててる兵隊達を黙って見詰めているニコラ爺さんの姿があった。 もちろん、爺さんは兵隊達なんかに用はない。 ・・・いつの間にか爺さんの後ろには、 ワタリガラス、灰色狐、ずんぐり熊の、三匹の動物達が後ろに控えている。 「フラウ・ガ…
湖ではマリーの人形が、 かつての自分を殺した領主を、水中に引きずり込むことに成功していた。 屈強な男の身体でどんなに暴れても、 強烈な憎しみの思念によって動く、「彼女」の腕をひきはがすことはできない。 さらに領主は、自分を捕獲しているものが生…
ほぼ同時刻、村では朝から大騒ぎになっていた。 既に夜の内から、マリー達の両親が村の隅々まで探し回っていたのだが、 村人達は悪霊達を恐れて、家から出ようとせず、 二人は何とか砦にも足をのばしたのだが、 しらばっくれた見張りの兵士に、にべもなく追…
・・・あたりは薄ぼんやりとしてきた・・・。 朝霧ではない・・・、 夜明けが近づくにつれ、彼らの存在そのものが希薄になってゆく。 走り去るマリーを見送ってた彼らだったが、 枯れ木の男・・・エックハルトが先に口を開いた。 「・・・フラウ・ガウデン、…
人形の唇は、薄く隙間が開いてはいるが動くわけではない。 それでも声は出るようだ。 どうゆう魔法なんだろう? 「・・・心は楽です、でも・・・身体がすごく・・・抑えの利かない力が湧きあがって来て・・・ 今にも 勝手に動き出してしまいそう・・・。」 …
・・・術そのものには大して時間は掛からなかったようだ。 だが、今やマリーは・・・、 いや、かつてマリーと呼ばれた少女は、 人形の中で自分の心がどんどん、他の何かに変わっていくという感覚を受け止めるので精一杯で、 新しい身体を動かすどころか、 周…
「・・・いくつか理由はあるけどね、ま、確かに『取引』ってのは口実さ・・・。 まずは、あたしの手元に、こんな人形を置いときたくないのさ・・・、 あんたも女なら判ってくれるかい? コレを作ったやつは親切のつもりかもしれないが、余計なお世話さ・・・…
マリーは、嬉しそうに身体を揺らす男と人形を見比べた。 この綺麗な人のだんな様・・・? やっぱり若い時はかっこよかったのかな? いや、今はそんなこと考えてる時じゃない。 「わたし、人形になったら・・・この人みたいになるの・・・?」 それを聞いてさ…
「いいんだよ、・・・まだ他人に気を遣う余裕はあるようだね。 だけどね、いい事ばかりじゃない、 さっき言ったように、苦しみがなくなるというのは、 『感じる事がなくなる』・・・という事なんだ。 痛くもない・・・苦しくもない・・・ 熱くもない・・・寒…
「・・・そんな方法があるのですか!?」 フラウ・ガウデンは一度、マリーの傍から離れ、 ボロボロの腕をかざし部屋の反対方向を指差した。 「歩けるかい? あそこに扉が見えるだろ? あの扉を開けてご覧・・・。」 マリーはベッドを降りた・・・。 すでに足…
マリーは身震いするが、老婆はそんなことなど気にも留めない。 「命を吸うには誰でもいいってわけじゃない、相性があるのさ、 子供や若い女性はかなりいいねぇ、アンタはとても相性が良さそうだ・・・。 生きてたら最高のご馳走なんだろうけど、半分死んでる…
「 ・・・イヤよ! どちらもイヤ!! ・・・せめて安らかに死なせて! こんなに苦しいのはイヤよッ!!」 老婆はマリーの目と鼻の先まで近づいてきた。 普通の神経では、その醜悪な顔面には耐えられやしないだろう、 だが、既に死人同様のマリーはその感覚が…
マリーは急激に自分の体温が低下していくのが分った。 マリーは見る見る自分の肌が青ざめていくのが分った。 目覚めた時は、服を着ていたと思ったのに・・・本当は裸のままであることにも気づいてしまう。 マリーは瞬きもせず・・・、いや、瞬きをする必要す…
「あ、あ、あ、うッ・・・なんて事・・・、エルマーがぁ・・・うっうっう~・・・」 そうだ、弟は殺されたのだ・・・あのヒトの皮をかぶった獣の領主に・・・。 マリーの記憶に、怒りと悲しみが一気に押し寄せてきた。 泣き始めたマリーに優しい言葉を掛けな…
「 イ ヤ ア ア ア ア ア ァ ッ ! ! 」 マリーは大声でベッドから跳ね起きた・・・。 あれれ? ・・・? ここはどこだろう? 自分の叫び声に驚いたが、すぐにマリーは、何も考えられないまま固まってしまった。 全く見慣れない風景が、自分の目に映ってい…
程なくして領主が戻ってきた、 手には鞘に納められた小さな短剣を握り締めて・・・。 「・・・待たせたな、もうおまえは外でいいぞ。」 そう兵士に言うと、領主は短剣を机に置き、中途半端に脱いでいた上着を完全に脱ぎ捨てた。 既にマリーは余りの事に足腰…
そこへ、転がるようにエルマーが寝室に突入した。 背丈が小さい分、兵士の腕をかいくぐってこれたようだ。 ベッドの上では、既に領主はマリーの長いスカートをまくりあげ、 露わになった弾力のある太ももから、無理やり下着を剥ぎ取ろうとしている。 「・・…
「ああッ、もう、ほら御覧なさい!」 途端にエルマーはむせ返るも、兵士達は大はしゃぎだ。 マリーは弟に駆け寄ろうとしたが、領主がマリーを放さない。 勿論、領主に触られるのも嫌なのだが、あからさまに拒絶するマネもできないし・・・。 その内に領主の…
三作目です。 今回はLady メリーの生誕の物語です。 第二章同様、過去作品「精霊達の森」がベースになってます。 エックハルトとフラウ・ガウデンの物語もいつか書きたいのですが、 まずはメリーさんの物語としてお読み下さい。 Lady メリー第三章を読む 第…
着ている物や、その威圧的な態度から見て、間違いないだろう、 領主様だ・・・。 男の厳しい表情に、二人は後ずさりしながら、マリーが恐る恐る口を開いた。 「ご、ごめんなさい、どんな人たちがいるのかと思って・・・、すぐ帰ります!」 そう言って、エル…
普段から弟の世話を焼いている歌好きのマリーは、しっかり者ではあったのだが、 実際、砦は彼らの家から遠くもなく、マリー本人も兵隊達に興味があったので、 「すぐに帰るわよ。」 という条件付きで覗いて見ることにした。 うーらーらーら~♪ ねぇ、あなた…
ニコラ爺さんはいろんな事を知っている。 爺さんはあちこちを旅してきた人だ。 いつの間にか村から消え、何年かしてからまたひょっこり帰ってくる。 身寄りはない、・・・ただの乞食といってしまえばそれまでなのだけど。 しかし、村ではこの爺さんはみんな…
この出来事が起きる、すこし前まで時間を戻してみよう。 ここはヨーロッパ中部の、ある小さな谷あい。 周りは万年雪の見える山々に囲まれ、 一方には、暗く深い森があり、湖の周りには小さな草原もある。 人々は主に、放牧や狩猟、また小さな畑でわずかなが…
・・・約、150人ほどの集団であろうか? 腰に剣を佩き、弓矢を携え、兜や胸当てに身を包んだ一団が、 大きな湖の岸辺に集まっていた。 戦でもあるのだろう、 彼らは20人ずつ程に分かれ、岸に停めてある幾艘かの船に乗り込もうとしている。 その内の一際大き…