☆酩酊のディオニュソス
☆ ・・・長かった・・・。 ここまで長くなるなんて・・・。 最後まで飽きずにお読みいただいた方、 ありがとうございます。 それでも、全ての謎を明らかにしないまま、 終わらせてしまい、ご不満な方もいらっしゃるかと・・・。 この作品は、デュオニュソス…
激しい血飛沫が飛んだ! その場にいた大勢の悲鳴と驚愕の声・・・、 一人の男が、頭部をあり得ない角度にぶら下げて、 地面に崩れ落ちたのである。 これが仮に、ただの村人の死体であったなら、 却って事態は混乱に拍車がかかっただけかもしれないが、 誰も…
その言葉を聞いた瞬間、 タケルの中で、何かが弾けた・・・。 彼の思考力は未だ、機能していたが、 それが正常な状態のままであったのか、 それは最後までわからなかった。 その時、・・・デュオニュソスの言葉を聞いた時、 タケルは彼の黒い瞳に吸い込まれ…
「きゃあっ!? ウェテレウス!? な、なにっ!?」 ミィナの声に驚いてタケルが振り向くと、例の男がミィナを抱きしめようとしている。 ミィナは咄嗟に顔をそらしたが、 まるで彼女の唇を奪いかねない迫り方だ。 「て、ってめっ・・・。」 だが、見ればその…
タケルは勿論、サルペドンもマリアも、 デュオニュソスが言う最後の選択とやらが、何を指すかは分かり切っていた・・・。 この場の全員の目を覚まさせるには、 誰か一人の命でも奪わねば、収まりはしないと言う事に・・・。 半端な暴力では、火に油を注ぐだ…
タケルは悲鳴をあげるかのように叫んだ。 「どうしろってんだよぉ!? デュオニュソス! この・・・この状況でオレに何をしろって言うんだっ!?」 デュオニュソスは更に村人をかきわけ、タケルの傍に寄る。 「はぁん~? 君こそとぼけるのは止した方がいい…
いや、似たような重い問いかけなら、サルペドンだってタケルに課してきた自覚はある。 だが、 サルペドンはタケルに要求したのは、 真剣に当時の難題に向き合う態度を引き出すためであって、 実際、それらの問いに明確な回答まで得るつもりなど毛頭なかった…
やばい! この状況ではいかなる言葉も彼らに届きそうもない! かといって、暴力に訴えるのだけは・・・。 「デュオニュソスさん! 少なくとも彼女が怯えているのは分かるだろう! 村人たちだけでも止めてくれ! さもないと、大勢のけが人が出る!」 すると、…
今の指摘は、ミィナよりもタケルの方が衝撃を覚えたようだ。 いや、ミィナでさえ、話の内容は分からないでもないのだが、 理性が薄くなってる今では、話を理解するのに少しテンポが遅れただけなのかもしれない。 そしてデュオニュソスは確かに正直なのだろう…
ありえない・・・酒田がマリアに向かってこんな口調をするなんて・・・。 確かに理屈はある程度、筋が通っている。 酒田なりにしっかりと自分の考えは持っているようだ。 しかしその異常さはタケルにもわかった。 平和? あんな攻撃的な口調で? 確か、こな…
じゃあ、結局、デュオニュソスに何を言っても無意味ってことじゃないのか? もはや何の手も打てないタケルは再びマリアに視線を振る。 マリアの方は、タケルの事などもはやお構いなしに、 デュオニュソスに最後の確認をした。 「・・・ではデュオニュソスさ…
ここでタケルも、湧きあがる疑問を抑えられなかったのか、 おずおずと、弱気のままデュオニュソスに問いかける。 「ちょっと待ってくれ・・・、デュオニュソスさん、 オレ達は・・・オレやサルペドン、マリアさんに影響ないってのは、 どういうことだ?」 実…
だが、デュオニュソスはマリアの指摘に指を振って、否定する。 「チッチッチ・・・、 あああ、美しい地上の姫君よ、 あなたは大いなる誤解をしておいでだ・・・。 まず一つ! 私は誰も操っていない・・・。 あなたの仲間たちに聞いて御覧なさい? 話しをよく…
何度でも強調するが、 タケルはついこないだまで、どこにでもいるそこら辺のフリーター。 その常識感覚も、社会規範意識も普通の一般人の範疇を越えるものではあり得ない。 それがいきなり人殺しや戦争の世界に巻き込まれ、 意に沿わぬ戦いを繰り返していた…
「 ゥ オ オ オ オ オ オ オ オ オ ッ !!」 デュオニュソスの村に野獣の咆哮が響き渡る! その音量は、一斉に帰れコールを放っていた、スサや村人の声を凍りつかせるものだった。 ・・・そこにいるのは、完全に鬼人のような形相に変化していたタケルである…
そしてあろう事か、そのスサの仲間たちは、 デュオニュソスの言葉を証明するかの如く、タケル達に叛意の目を向ける。 サルペドンがデュオニュソスを制している間、 今度こそ自分の番とばかりに、タケルは勇気を奮い起した・・・! 「みんな・・・! オレ達の…
「タケル・・・。」 サルペドンが小声でタケルにつぶやく・・・。 「あ? なんだ?」 「そう言えば、思い出したよ・・・。 古代神話のエピソードなんだが、デュオニュソス崇拝が広まるのを恐れた人間の王が、 デュオニュソスの捕縛を試みた。 だが、逆にデュ…
しばらくして、タケルの部下たちで、 今だ理性を保ちながら、どっちつかずの態度を示していた者から、情報が入った。 昼過ぎにアンテステリア祭参加者の会合があるという。 デュオニュソスの進行の元に、 村人たちは勿論、参加を希望しているスサの全員がそ…
一方、サルペドンもまだ何の話か、完全に飲み込めていない。 マリアは先ほどの経緯を簡単に説明する。 「だが、マリアよ、 そうなると、デュオニュソスは意図的に我々を罠にかけていると言う事になるぞ?」 「・・・そうなりますね・・・。」 「ではその理由…
マリアは急ぎ足でサルペドンの元へ向かった。 事態を理解しきっていないタケルは、彼女の後ろを不安げについていくしかない。 「・・・マ、マリアさん、どーゆーことだっての!?」 「二度手間になるから、サルペドンの所で説明します!」 すぐに二人はサル…
この様子を見ていた第三者なら・・・、 彼らの心の揺れなど手に取るようにわかったのではないだろうか? 勿論、マリアは全て看破した。 ミィナが待っていたのは、タケルの本心・・・。 自分をそのまま抱きしめてくれるなら、 この村の青年になど心奪われる必…
ミィナは目を拭いて、やや後ろめたそうな口調で説明した。 「ん? ウェテレウス・・・、狩りのメンバーの一人だよ・・・。」 「他のスサのメンバーの取り次ぎもなしに、いきなり、 こんなところまでやってくるのか?」 その物言いが、不満そうな言い回しにな…
これでは立場が逆だ、 タケルの方が説得されているような構図ですらある。 しかも今まで蹴りとかパンチとか、やたらと攻撃的だったミィナがいきなりしおらしく・・・。 今や、タケルは半分、ミィナに抱きすくめられている格好だ。 しかも、涙を浮かべた潤ん…
ミィナは視線を落として、真正面からタケルを見ようとはしない。 少なくとも、家族を失った悲しみを忘れているわけではないようだ・・・。 タケルは、その後のミィナから反論を待っていたのだが、 彼が予想もできずに目撃したのは、 ミィナの目からこぼれ落…
その日、一日、悩みに悩み、 タケルは翌日、昼近くまで寝坊していたミィナを説得するための行動に出た。 彼女のテントには、マリアさんしかいないから、 うまく、二人がかりで他の邪魔が入らないように、ベストのタイミングを選んで説得を試みる。 「・・・…
タケルはその思いを・・・あの時の自分の感情を思い起こした・・・。 「わかった、やれるだけやってみるよ・・・。」 だが、サルペドンはさらにタケルに追い込みをかける。 「もう一つ。」 「ん?」 「万が一、ミィナを説得できなかったとき・・・。」 「あ…
それはそうだ・・・。 デュオニュソスが敵なら、簡単に倒す事ができそうなのに、 なまじっか敵意がないので攻撃しようもないのだ。 しかも彼は、スサが自分達の意志で出ていくと言っても引き留めようともしない。 となると、やはり自分達スサ内部をどうにか…
その後、 タケル、サルペドン、マリア、そして残った有志で、再度対応策を協議した。 まず、真っ先に疑わねばならなかったのは、 ディオニュソスが最初から、スサを騙す目的で、 自分達を分裂させるか、足止めをさせるために起こした行動なのかどうか・・・…
動けないタケルにサルペドンは近づいてきた。 その接近をタケルが気づかない筈がない。 それでも反応を見せないタケルに、 サルペドンは片足を上げ・・・ 思いっきり、タケルのカラダを蹴っ飛ばして見せた! ドンガラガッシャーン! 大きな音を立てて椅子が…
デュオニュソスとサルペドン、 二人の会話はそれ以上、続くことはなかった・・・。 サルペドンは静かに、立ち去るデュオニュソスの後ろ姿を見送る・・・。 サルペドンの後ろの小屋の中からは、興奮しきったスサのメンバー達が、 勝手気ままに騒ぎながら、出…