Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

明かせない本心

 
  16.

 「どうもリチャードは、奥さんにほとんど話をしていなかったみたい。
 ・・・それで、已む無く先生は奥さんに例の顛末を話しちゃったんだって。
 その時に、その幽霊がメリーと名乗っていた事を伝えたそうだから、
 今、街中で噂になってるのは間違いなくあの家が発端だわ!」
 「でも、それがどうして困った事に・・・?」
フラアはふざけて泣きそうな声を出した。
 「・・・孤児院の子供が見た幽霊ってぇ、あたしとそっくりなんですってぇぇ・・・。」
 「・・・そんな・・・。」
 「どー思うー? 」

セザンヌはしばらく思いつめていたようだが、ニッコリ笑って答えた。
 「きっと大丈夫ですよ、他に事件は起こってないんですよね?
 しかもリチャード本人が、怪しげな儀式を行っていたって言うじゃないですか?
 ・・・だったら自らまいたタネかもしれないですし、
 もしかしたらフラア様の守護精霊かもしれませんよ・・・。」
 「ええ~? そういうのいいわよぉぉ、
 ただでさえアイツとトラブッてたの有名なんだしぃ。」
 「ならいい方に考えましょう、
 『神の娘』フラア様に無礼な振る舞いを働いた強欲商人が、
 天の報いを受けた、と・・・、そういうことで・・・。」
 「・・・また伝説増やすのぉ? あたしは何にもしてないのにぃぃ・・・。」
 「そんなことはないでしょう、あなたは世界を救った英雄なんですから。
 胸をはるべきです。
 だからこそあなたは、天使シリスの加護を受けていると呼ばれているのではないですか?」

セザンヌの言葉は大げさではない。
世間的には、自らを犠牲にしたディジタリアスの方が、確かに英雄視されてはいるが、
大陸戦争で、最終的に局面を変えたのは、間違いなくフラアの活躍によるものなのだ。
本人だけがその自覚がないのである。
いや、というよりもフラア自身が、その冠された「称号」に重みを感じているのだろう。
本来なら、その辺の能天気な町娘に過ぎなかった筈の彼女が、なんでこんな重いものを・・・。
セザンヌはフラアの無言の感情を読み取っていた、
孤独な王宮内で、たった一人で生き抜こうとするひたむきな皇女の心を・・・。

 二人は、しばらく取りとめもない話を続けた後、それぞれ自室で眠りについた。
セザンヌは部屋を離れる時、
ポツリと言葉を発したが、それはフラアに聞こえるものではなかった・・・。
 「フラア・・・ごめんなさい・・・。」

                   (第二章 皇女フラア 終了)