Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

第五十六話

 
斐山優一は何事もなかったかのように、
土手からあがってきた。
 「救急車はいらないからな、命に別条はない・・・。
 ま、しばらくは寝たきりだろうけどね。」
まるで、全て予定通りと言わんがごとくの優一の表情に、
鮎川も加藤もあっけにとられたままだ。
無理もない、
彼らはこんな荒事と無縁の生活を送っているからだ。
ただひとり、エリナだけが、
誇らしい笑みを浮かべて優一の帰還を待ち構えていた。
 「優一さ、ま、あ、いえ、優一さん!!
 素晴らしい動きでした! お怪我はありませんか!?」
 「・・・無傷さ、
 エリナもどこもやられてないか?
 加藤達も無事のようだな、
 エリナ、よくやった・・・。」
優一さんに褒められたぁーっ!!
エリナは少女漫画のキャラのように瞳に星を瞬かせ、優一に抱きつく寸前の衝動にかられる。
すぐに事態を察知した優一は、
視線を思いっきり醒めた状態でエリナを睨みつけて、彼女の行動を制する。
 しょぼーん・・・。
 まぁ、いいや、また家に帰ってから甘えちゃおう・・・ダメかな?

優一は、エリナはもういいと無視して、次に加藤達を気にかける。
 「山本は立てるか?
 鮎川も、まぁ男なんだからどってことあるまい・・・、
 加藤は・・・『前回』に比べればどぉって事なさそうか?」
そうなのだ、斐山優一は常にぶっきらぼうで、無表情で、
冷たい印象の方が強いが、こんな状況で彼女たちを気遣う余裕を持っているのだ。
彼自身のポリシーなのか、正義感なのかいま一つよくわからないのだが、
加藤恵子は改めて、斐山優一の性質を再確認した。
 やっぱりこの人って・・・。