第五十六話
斐山優一は何事もなかったかのように、
土手からあがってきた。
「救急車はいらないからな、命に別条はない・・・。
ま、しばらくは寝たきりだろうけどね。」
まるで、全て予定通りと言わんがごとくの優一の表情に、
鮎川も加藤もあっけにとられたままだ。
無理もない、
彼らはこんな荒事と無縁の生活を送っているからだ。
ただひとり、エリナだけが、
誇らしい笑みを浮かべて優一の帰還を待ち構えていた。
「優一さ、ま、あ、いえ、優一さん!!
素晴らしい動きでした! お怪我はありませんか!?」
「・・・無傷さ、
エリナもどこもやられてないか?
加藤達も無事のようだな、
エリナ、よくやった・・・。」
優一さんに褒められたぁーっ!!
エリナは少女漫画のキャラのように瞳に星を瞬かせ、優一に抱きつく寸前の衝動にかられる。
すぐに事態を察知した優一は、
視線を思いっきり醒めた状態でエリナを睨みつけて、彼女の行動を制する。
しょぼーん・・・。
まぁ、いいや、また家に帰ってから甘えちゃおう・・・ダメかな?