Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

ランディ プロローグ49

 
 城壁の前では、およそ8000からなるイルの騎兵が、執拗なる波状攻撃を繰り返していた。
梯子隊というものは、彼らの概念には存在しないらしく、
城壁を登られる事はなさそうだが、
鉄球部隊が城門や壁をも破壊し、弓矢兵がアルヒズリ兵に雨霰のように矢を浴びせている。
彼らは攻撃にのみ意識を集中させ、その背後の草原など一瞥もしない。
・・・だが、その草原の彼方から、
湧き上がる黒雲とともに鎧を纏った騎馬が近づきつつあった。

・・・その男の目の前に戦場がある。
アルヒズリの兵は城内に閉じこもっており、その広大な草原に男の味方は誰もいない・・・。
・・・どう考えても、ここを飛び出していくのは自殺行為だ・・・。
 それもいい・・・。
 別に爺さんの遺言だって、今更どうでもいい・・・。
 せめて敵の一人か二人・・・、道連れにしてやれば上等だろう・・・。
男は本気でそう考えていた。
恐怖心は!?
あれほど臆病な感情はどこへいったのか!?
 いや、・・・恐怖心はある・・・。
 怖いっちゃあ怖い・・・。
だが、鎧の胸当てにはめ込まれた形見のペンダント・・・。
 (ちょうど、それはまるでそこにはめ込まれるべき物であるかのように、サイズがぴったりだった。)
十字をもじったような奇妙なデザインのその金属が、
彼の恐怖心を、荒々しい闘争心に変えていたのだ・・・。
そして・・・さらに不思議な事に、
その猛きエネルギーは、
自分どころか、跨っている馬にも伝染しているようなのだ・・・!
傍から見ればそれは、人馬一体の・・・禍々しい化け物の姿にも例えられるかもしれない。

 ゴロゴロゴロ・・・
     ビシャアッ!!

 草原の上空を雷鳴が切り裂く・・・!
アルヒズリ兵はそんなものに気を取られる余裕すらないが、
攻め手のイル兵には、無視できるはずもない。
障害物のないこの草原に落ちたら、自分に雷があたる可能性もあるのだ。