Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

施設の男 11

 
 「普段は訓練がメインだよ、今日はたまたま実戦の日だ・・・。
 もちろん、訓練でも大勢、怪我したり死んだりするがな・・・。」
 「なんで、そんなことを!?
 普通の兵隊の訓練よりも過酷だろう、これは!!」
 「そうだろうな、この施設で育った者は、兵士よりも重要な役目を負うのだからな・・・。」
 「兵士より重要? 何だそりゃあ!?」
 「わからないか?
 ・・・暗殺だよ・・・。」

ツナヒロは動くことを・・・いや、下手をすると呼吸すら忘れるほどの衝撃を受けた・・・。
 「あ・・・暗殺?」
 「勿論、それだけじゃない、隠密や各種破壊工作、
 目的のためならどんな汚いことでもやる。
 敵国イヅヌに潜入して内部崩壊を企んだり、
 或いは、国内の不穏分子や、帝に否定的な意見を述べる重臣を毒殺したり・・・とかね。」
ツナヒロの耳には、床下から聞こえてくる子供たちの怒号や悲鳴、
時には泣き声の多重奏に、頭の中がグラグラまわり始めてゆく・・・。
ショックを隠せないツナヒロに、男はさらなる追い打ちをかける。
 「お前がなぜ、こんな国で破格の待遇を受けていられるか、
 その意味を考えた事があるのか?
 お前はこれから人殺しの道具を作らされるんだ・・・。
 この下の奴らや軍隊が、敵国の兵士や人民を一気に殺せるような奴をな。」

ツナヒロの目の前が真っ暗になった・・・。
予想できなかったわけではない。
ただ、考えないようにしていたのだ。
連日の楽しい宴会、そしてユェリンとの甘美な一時・・・。
目の前の快楽に溺れすぎた結果、
自分の悩みや不吉な事を、無意識のうちに遠ざけるようになってしまっていたのだ。
・・・落ち着いて考えれば当たり前だ。
科学文明が消失したこの世界にとって、自分の知識がどれだけの影響力を持っているのか、
それは竹槍で殺し合いをしている時代に、
自分は、核爆弾をひっさげて現れたほどの破壊的な存在なのだ。