・過去からの漂流者
長い黒髪をたなびかせた、あの大きな男の人・・・。 きっと、あの男の人は全てわかっていたんじゃないかな・・・、 最初から全て・・・。 もう、わかんないけどね、 どっちにしろ、あたしには手の届かない未来のお話みたいだし、 きっと、その先は新しいメリ…
その殺し屋さんて、 不思議な力を持ってて、誰かに触れるだけで、 相手のカラダを切ったり治したり、できるんだよ。 ・・・あれって、きっと心霊治療と催眠幻覚の系統に属する力だと思う。 あ、それでね、 以来、その男の冷たい瞳が溶け始めたの!! その男…
「あっちの世界に行ってしまったママへ」 やっほー、ママ、あたしの声が聞こえますか? もう、あたしにもママの意識を感じることはできなくなっちゃったけど、 今でも、ママはあたしたちを見守ってくれてるんだよね? ううん、 ママにいつまでも甘えたいなん…
だが、そんなことを怯えることもない。 きっとツナヒロには、この世界にやってきた理由があるはず。 手を伸ばせば、その扉は開かれるだろう、 それを夢見ることのなんと愉快なことか。 そんな彼だからこそ、ツナヒロは宇宙飛行士への道を選んだのだから・・…
もう、とうにザジルは前方に注意を向けていたのだが、 ツナヒロにそう言われて、ザジルはそのまましばらく考え込んでいた。 やがて、ツナヒロの言葉に納得できたのか、 もう一度だけ、背中のツナヒロに語りかける。 「なるほど、お前の言う通りだ、 ならツナ…
「・・・う、そう言われるとな・・・、 実際、あの時、オレはたった一人ぼっちで心がくじけそうだった・・・。 いつ、心がぶっ壊れてもおかしくなかった。 そんな時に、彼女が現れて・・・。 だがな、例え一時の心の迷いでも、 そ・・・それなりの関係を持っ…
ザジルはしばらく、オルトスの遺体を見つめている・・・。 その死を確認しているのか、 それとも、何か思う事があったのか・・・、 ツナヒロにはわからない・・・。 だが、ツナヒロに脳裏には、 オルトスの最後の言葉がこびりついていた・・・。 「カラダを…
そしてついにオルトスはその体勢を崩し、 当然の如く、そのカラダは木の上から土の上へと、大きな音を立てて墜落した。 ・・・その音・・・ まるでぬかるみの上で飛び跳ねたような「ビチャアッ!」っとした音・・・。 ぼろ切れの隙間から夥しい量の血が溢れ…
だが、ザジルはそれを聞いて、嘲るような笑みを浮かべるだけだ。 「ザジル!! 何笑ってやがるぅ!!」 「いやなに、・・・お前の方は二つ間違っているようだな・・・、 まず一つ、 オレの力は、生まれながらに身についてるものだ。 まぁ、あの館でいろいろ…
その時、ザジルはツナヒロが不安そうな視線を送っていることに気づいた。 だがそれに対し、ザジルは一瞬、笑みを浮かべたように見える・・・。 「ツナヒロ、そう、怯えるな、 所詮こいつは雑魚だ・・・。 オレを倒すことなどできん・・・。 コイツにできるの…
「フー、ツナヒロ、聞こえたか・・・、 あの館にはこんなのばっかりだったんだ・・・。 もっとも、自分が生き延びるために、他人を殺すことを義務付けられた者たち・・・、 心性がねじ曲がらない方がどうかしているのかもしれないが・・・。」 ツナヒロには…
半ば強引にザジルに引っ張られたツナヒロだが、 確かに背中の辺りで、何らかの物体が通り過ぎたような気配を感じた。 慌てて首だけ起こすと、視界の端に何か異様な物体が木々の間に消えて行った。 「な・・・なんだ、いまの!?」 「・・・追手だな・・・。…
馬車は市街地を抜け、申し訳程度の舗装がしてある荒れ地が近づいてきた。 日も昇り、空も明るくなっている。 時折、道の脇に行き先表示が見受けられる。 次の村まではそんなに遠くなさそうだ。 出来ればそこで、地図のようなものでも入手できればいいが・・…
「なっ? 邪神崇拝?」 「知らなかったか? それが九鬼の名の由来だそうだ。 その秘儀は門外不出なために、その明確な姿を知る者は誰もいないが、 大勢の人身御供を行っているようだぞ。 ・・・こっちの話は、オレ達の組織も時々、活動に協力していたから、…
「北っていうと・・・九鬼と戦争している・・・、」 「そうだ、大陸最強の軍事国家イズヌだ・・・。」 しばらくツナヒロは考え込んでいたようだが、その内、突然大声で喚いた。 幾度考えなおしても、 ザジルの言動から見え隠れする、一つの矛盾を理解するこ…
「・・・凄まじいな・・・、だがこれでかなりの時間が稼げるだろう・・・。 そうだ、ツナヒロ、 さっきのバーナーとやらは、城壁を破ることは可能か?」 「あ? ああ、燃料に限りはあるが、 要はこの馬車が抜けれるだけの穴を壁に開ければいいんだろう? た…
いきなりトラブルだ。 弓矢の射程距離外に出たら出たで、今度は大勢の騎馬隊に追われることになる。 「ツナヒロ! 他に武器になるようなものは!?」 「だから武器はないって・・・あ!! ガソリンがあるぞ!!」 「それはなんだ!?」 「百聞は一見にしかず…
「そうだ! アレが使える! 宇宙船修理用に備え付けてあった高出力バーナー・・・!」 橋を渡り終え、馬車を止めさせると、 ツナヒロが用意したのは、暗闇に激しく青い光を発する超高温のバーナーだ。 大木でできている橋のようだが、 橋を支えてる部分は大…
さて、準備が終わるや否や、 すぐにツナヒロとザジルは馬車の中に乗り込み、この館から出発する。 「・・・それでザジル・・・どうやって、ここから出て行くんだ?」 「いま、改築中の城門がある・・・。 警備はもちろんいるが、そいつらを除けば馬車はスム…
何と、ユェリンはその言葉で、うっすらとだが目を開いて見せる。 「・・・自分の身の程ぐらいは承知してるわ・・・、 でも、ザジル・・・こんなことをしでかして・・・。 『お館様』は絶対あなたをお許しには・・・ならないわ・・・。」 「・・・逃げきって…
「何度も言わせるな、保証はできない・・・。 傷口は何もなかったように塞ぐことはできた。 それでも、・・・このまま意識を取り戻すかは、オレにもわからない・・・。」 「そ・・・そうか・・・。 あとは彼女の体力次第・・・なのか?」 「そう言うことにな…
「おい! ユェリン!! ダメだーっ!! 目を開けろッ! たのむ! ユェリン!! そ・・・そうだ、ザジル!! お前オレの傷口を治したよな!? アレをやってくれ!! そ、そうしたらすぐにここを出発するから!!」 ザジルはすぐにユェリンの元に駆け寄った。 …
その時、ツナヒロの視界に・・・階段の下から下男がこっそり登ってくるのが見えた。 ちょうど、ザジルの真後ろ・・・ツナヒロにはザジルの下半身の向こうに見える。 勿論、同じ方向を向いていたユェリンにもそれがわかっていたが、 「教育」を受けているユェ…
しばらくツナヒロは金魚のように口を動かすしかできなかった。 ようやくそれが言葉となる・・・。 「な・・・何を言ってるんだ!? 地獄? あの世にって!? ちょっと待て!! 聞いたろうっ? ユェリンはオレを騙してなんかいなかった!! 二人ともだ、頭を…
「ユェリン・・・このままでいい・・・! お前の持つ針がオレの体に向けられたままでいい・・・、 一つだけ正直に答えてくれ! お前は・・・オレのこと・・・、 おれと一緒でいられることが幸せだって言ったのは・・・」 ユェリンの髪が乱れる。 「当たり前…
だが、彼女は眼をうるませながらツナヒロを睨みつける。 「あ・・・あなたはバカですっ! 大バカですっ!! なんで・・・どうして! あのままなら幸せでいられたのに! それに私の・・・ユェリンの気持ちも信じてくださらないなんてっ!!」 「ユ・・・ユェ…
その時、長い髪のザジルは横目でツナヒロを見下ろした・・・。 「バカめが・・・。」 男に隙ができた! ユェリンが飛び出す! 「しまったっ!!」 これまでクールに振舞っていたザジルが初めてうろたえる。 ・・・そして、ユェリンの攻撃対象は・・・ 「ユェ…
「・・・。」 ユェリンは答えない・・・。 代わりにザジルと呼ばれた男だけが、振り向きもせずにツナヒロに答えた。 「別に大した仲じゃないさ、 物心もつかない子供のころ、たまたま、同じ時期にあの屋敷に連れてこられただけだ・・・。 オレは暗殺部隊・・…
「て! てめえ!?」 「だから、お前の選択は正しかったんだよ。 少なくとも寿命が延びただろう?」 なんて恐ろしい事を考えるんだ、こいつは・・・。 というよりも、この先、信用できるのか!? いや! もともと、こんな奴の言うことを真に受ける必要すらな…
そこまで話すと、男は窓から宿舎の廊下に侵入してきた。 音もなく着地すると、彼は長い髪をすきあげ溜め息をついた。 「・・・なるほど、それはヤバいな・・・。 まぁいざとなったら燃やすか・・・、海の底に沈めるか・・・。 馬車は・・・オレもうまく乗り…