Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

衝動

 
 再び寝室は暗くなったが、もう事実を隠す事もごまかす事もできない。
ほんの一瞬しか見えなかったとはいえ、ピエリの顔面が変形するぐらい腫れあがっていたことだけは、
フラアにもはっきりとわかった。
 「なに? お兄ちゃん、まさかケンカでもしてきたの!?
 ちょっと待ってて!
 薬箱とってくる!!」

その間、ピエリは貪るように水を飲んでいた・・・。
酩酊状態に近いものがあり、判断力・思考能力は低下しているかもしれない。
これからの事など何も考えたくなかった・・・。
いずれ、向き合わなければならない現実の事など、せめて今だけは・・・。

そしてフラアが戻ってきた。
まずは部屋のランプの種火をつけてから、手当の準備を始めるようだ。
外は、雷と相まって、粒の大きい雨音も聞こえ始めている。
彼女の慌ててる姿を、ピエリは静かに眺めていた。
相変わらず、フラアは口を閉じることなく、
心配してるのだかお小言だか、区別できない言葉をさえずり続けている。
ピエリはフラアの言葉を全て流していた。
一々彼女の言葉に真っ正直に答えていれば、
今夜のいざこざの原因を明かしてしまいそうだったから・・・。
だが、ピエリが何も喋らず、
ほとんど瞬き以外の動きを見せなくても、
フラアは一心不乱に兄の怪我の手当てを続けていた。

フラアの柔らかい指先がピエリの頬に添えられ、
傷の消毒を行う・・・。
フラアの細い腕がピエリのカラダを通り越し、
怪我した右腕の包帯を巻いていく・・・。
その間、ピエリの顔の上を、
フラアの膨らんでいる胸元が揺れている・・・。

 その内に・・・ピエリの心に、これまで湧き上がったことのない、
 圧倒的で・・・しかも抗する事のできない強烈な衝動が首をもたげてきた・・・!