Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

死の神タナトスと、解き放たれた「魔」38

 
いったいこれから何が始まるのか?
ここから先、
周りに控えるものは、身動きはおろか、咳払い一つ許されない・・・、
そんな空気となっている。
いまだ、情景に変化が起きている風はない・・・。
ヘルメスが辛抱強く見守っているが、何も変わる様子はない・・・。
ついに、彼の忍耐も痺れをきらし、
首でも左右に運動させようかと考えたその瞬間、
彼の目がワイングラスの変化を捉えた!

 波紋?
 真紅の液体の表面に動きが生じている!
勿論、テーブルは揺れてもいない。
それどころか、波紋は段々と大きくなり、
それはまるで、グラスの底から炎でも当てられたかのように、
泡まで立ち上り始めた・・・!
そしてその泡は段々と大きくなり、
まるで沸騰でも始まるかのように・・・。
 「こ、これって・・・。」
ゼウスが諌めた・・・。
 「ヘルメス、驚くのはこの後だ・・・!」
そして波打つワインの表面からは、白い気体が発生し始める・・・!
しかし、通常の水の沸騰とはまるで様子が異なり、
その気体はグラスの上方、10センチほどの上空で固まろうとしているかのようだ・・・。
正確に言えば、「それ」は気体ではない・・・、
何故なら、湧き上がった白い塊は「物質」ですらないからだ!
そしてヘルメスが最も驚愕したのは、
その白い塊が、
やがて・・・人間の頭部のようなものに凝縮されてゆく様だ!
ゼウスは言う。
 「これが・・・ワイングラスの上に浮かんだ顔・・・、
 この若い女性が・・・。」
そう、いまや、その白い塊は完全に人間の顔の形となっていた・・・。
既に術を完成させたハデスは、自分の術の成果を見下ろしながら、ゆっくりと口を開く・・・。
 「はい、これが、緒沢タケル最愛の家族・・・、
 美香という姉の魂です・・・。」