Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

死者を呼ぶ者 44

 
先程、ハデスが自ら吐露したとおり、
もうこの男に奥の手など残っていない。
本来ハデスの戦術は、
霊体攻撃で自我を崩壊させた者に、手持ちの槍を突き食らわすという、至極明快な戦術だった。
スサという多勢を前にした状況にあっては、姿を透明にして、
絶対的安全を確保してからの攻撃という手順である。
勿論、この状態にあっても自らの姿をくらませて、
何事か謀っても良いのだが・・・。

ハデスにも理解できている事が一つだけある。
これまで、化け物並みの強さを見せ付けられてきたタケルに、これ以上、迂闊な手など通じない。
後は・・・逃げるだけしか・・・!

一方、タケルの右足は一際大きな石の上を踏みしめ、
これまでの「借り」を一気に返すつもりだ。
 「・・・ハデスっ!
 いろいろとやってくれたなぁっ・・・!」
 「きっ! 貴様っ! い、いや、貴様ら何者だっ!?
 こんなっ、こんなっ!?」
 「知るかよ・・・、
 だがハデス! 一つだけ礼を言っておく・・・。
 例え現実じゃなかったとしても・・・姉貴に会わせてくれた・・・。
 だから、確実にお前を殺す方法ではなく、
 この位置から天叢雲剣の電撃を食らわせてやるぜっ!
 今のオレも、どこまでの威力になってるのか、わからない・・・。
 生き延びられるかどうか、せいぜい自分の悪運に賭けてみるんだなっ!?」

タケルの言葉を待つまでもなく、ハデスの体が透明になっていく。
タケルへ攻撃するのか?
それとも逃げるのか?
前後左右どちらの方角へ動くのか、惑わせようと?
 ・・・馬鹿馬鹿しぃっ!
石くれの表面をわずかに舞う砂塵の変化で、
ハデスがどう動いたか、タケルの目には完全にその行方を押さえていたっ!