Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

ゼウス対ポセイドン 1

 
タケルたちがアグレイアの街を出たのは、
あの死闘から二日後のことであった。
タケルに関しては、松葉杖ごときでは埒があかないために、
おそらくヘファイストスあたりの技術によって作られたであろう、車椅子に乗せての旅となる。
肝心の王都ピュロスまでは二日とかからないそうだ。
タケルの回復力なら、それまでに両掌の傷は塞がるに違いない。
最悪、天叢雲剣を握るぐらい、どうにかなるはずだ。

・・・相変わらず上空の太陽の輝きは鈍い・・・。
ただでさえ、不安材料は山ほどあるのに、余計メンバーの気分を落とし込むことになりそうだ。
ハデス戦の後とは大違いだ。
隊の士気が下がっているのはもう一つ理由がある。
ミィナの表情が暗いことだ。
・・・原因ははっきりしている。
仮に、サルペドンがオリオン神群に和平案を提示し、
ゼウスがそれを飲んでしまった場合、
彼女の村や家族を殺された恨みの矛先が、どこへいけばいいか判らなくなるためだ。

もちろん、ミィナも話がわからぬわけでもない。
理屈では、これ以上、犠牲者を出すことが、いかに無益なことか理解はしている。
しかし彼女はまだ若く、それを心の底で受け入れることが出来ないのだ。
・・・特にタケルを含め、スサのメンバーたちは、オリオン神群に家族を殺された者はいない。
仲間が犠牲になっているとは言え、それはあくまでも既に戦闘の覚悟を決めた者たちの死だ。
平和な暮らしをしていたはずの自分たちを、
いいように踏みにじられたままで、どうして耐えることができるであろう。
それも、自分が言い出すことなら話は別だ。
今回は自分のいないところで、話が進められてしまった。
「あたしの気持ちを、少しでも、おまえら気にしてくれてんのかっ!?」
アグレイアの街を発ってからというもの、それがミィナの心中で渦を巻いていたのだ。

・・・ちなみに今、どんな状態かと言うと、
包帯とギブスだらけのタケルの車椅子を、ミィナが押している。
複雑な乙女心というのか、彼女は死にそうな目にあったタケルを労ってやりたくてしょうがない。
でも頭の中には、いろんな感情が幾つも幾つも沸いてきて、自然と寡黙なまま車を押しているのだ。