Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

ランディ プロローグ5

 
では次に、
この館のたった一人の男、ランディについて見てみたい。
通常なら、二十歳そこそこの健康な男子なら、もっとまともな仕事に就いているか、
兵隊にでもなってるはずである。
何故、こんな若さで売春宿に勤めているのか?
勿論、彼は最初からこんな仕事を選んでいたわけでもない。

・・・彼はこの街の近くにある牧場で生まれた。
父親は若くして徴兵先で戦死、
母親も何年か前に病没している。
実家では現在、彼の祖父が細々と羊を追っている。
子供の頃は、両親も祖父も厳しいしつけをランディに施し、
幼心にはその反発心も生まれていた。
子供の頃には友人もいたが、
その友達の暖かい家庭の様子を見聞きするにつれ、
自分の暮らしに我慢できなくなり、
母親の死後、しばらくしてから家を飛び出した。

・・・そして宛てもなく放浪して、居ついた先がこの売春宿というわけだ。
自分で自分の事を、ろくでなしだとの自覚もあるが、
下賎な仕事とは言え、
ある意味家庭的で、優しくも逞しい女性たちに囲まれる暮らしも悪くないとは思っている。
曽祖父の代までは王宮を守る高名な将軍職の家系だそうだが、
没落したのはそのご先祖様の責任であって、
自分には関係がない。
爺さんの跡を継いで、羊の世話をしていてもいいのだが、
暖かい家庭に飢えているランディには、
大勢の人間とコミュニケーションをとれる仕事が大好きだった。
自分の事も陽気で社交的だと思っているし、女好きと言われても否定しようとも思わない。

実際、・・・それぞれ暗い過去を持つ女性たちは勿論、
よくやってくる馴染みの客も、他人には言えない秘密を持ってしまうためか、
ランディとは、あっという間に気心が知れる間柄になる。
売春宿の大体の客は、この街よりも近郊の別の街からの者が多い。
行商やキャラバンなどが、旅の行き帰りなどにここを使うのが便利だったからだ。