ユェリン 2-7
そこまで話すと、男は窓から宿舎の廊下に侵入してきた。
音もなく着地すると、彼は長い髪をすきあげ溜め息をついた。
「・・・なるほど、それはヤバいな・・・。
まぁいざとなったら燃やすか・・・、海の底に沈めるか・・・。
馬車は・・・オレもうまく乗りこなせないしなぁ・・・、
御者を脅して使うか・・・。」
そしてツナヒロは肝心な事を訊く・・・。
「あ、それで・・・、その、物は相談なんだが・・・。」
「なんだ?」
「あの子を・・・、
お前が九鬼の監視員といったあの子を一緒に連れていくわけにはいかないだろうか?」
男は「マヌケか?」とでも言いたいようにツナヒロを見下ろす。
「お前、昨晩オレが言った事を理解していないのか?」
「い、いや、仮にあの子がそうだとしても、
それこそ、縄でふんじばったり、脅かしたりすれば、例え彼女が何かしようにも・・・。」
「無駄だ!」
「ひぃっ!!」
男はあの恐ろしい指先をツナヒロの顔面に向ける。
あと、5センチも接近すれば、ツナヒロの顔から血が噴き出すに違いない。
「ツナヒロ・・・勘違いするなよ、
オレがお前を連れ出すのは、善意からでもお前のためを思ってのことでもない。
お前の意志などどうでもいい、
要は九鬼帝国から、お前と言う存在を消したいだけなんだ。
その障害になりそうな要因を増やすわけにはいかない。」
「お、お前、オレの意志がどうでもいいって、
昨夜、オレに無理強いはしないって言ったじゃないか!!」
男はその体勢のまま首を揺らす。
「ああ、言ったっけな、
その通りだ、お前がこの国に残りたいとあの時、言ったなら・・・、
または、今晩、ここを出る事を拒否していたならば、
オレはお前を殺すつもりだった・・・。
少し考えればわかるだろう?」