暗殺者ザジル 1
「・・・。」
ユェリンは答えない・・・。
代わりにザジルと呼ばれた男だけが、振り向きもせずにツナヒロに答えた。
「別に大した仲じゃないさ、
物心もつかない子供のころ、たまたま、同じ時期にあの屋敷に連れてこられただけだ・・・。
オレは暗殺部隊・・・、
この女は・・・わかるだろ?」
暗がりでもユェリンの表情がみるみる歪んでいく・・・。
この顔は・・・悔しさ・・・それとも悲しみ・・・?
何も言えないツナヒロを他所に、ザジルはさらに説明を続ける。
「大したもんだな、
すぐそこまで気配を消すことができ、
あっという間に臨戦態勢で凶器を手にして・・・。
なかなか、高い教育を受けたようだな、ユェリン・・・。」
「やめて!!」
ついにユェリンは叫んだ。
「どうして・・・どうしてそんな事をここで言うの!?
ザジル・・・あなたが何の任務でここにいるのよ!!」
今度はザジルが黙ってしまう。
どうするつもりだ?
いや、ここまでこいつの言動からしたら、やはりユェリンを・・・!?
「ツナヒロ様!?」
ここでユェリンは、その疑問をツナヒロに向けた。
「ツナヒロ様、ど、どういう事なのです?
いったい、あなた方は何を・・・!?」
ツナヒロの心中には様々な思いが錯綜する。
・・・二人は知り合い?
ならこのザジルと呼ばれた男も無理はしないだろうか?
いや、それより、二人は「大した仲じゃない」といったが、それは本当か?
違う、そんなことは後回しだ、うまくいけばこのままユェリンを馬車に・・・!
「ユェリン! こんな国は出て行こう!
・・・このままここにいたら、オレ達はいつか引き離されちまう!
一緒にここを出るんだ! そうすれば俺たちはずっと・・・」