Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

第三十四話

 一方、朝田の動きは完全に硬直していた・・・。
当たり前だ、あのひ弱に見えたチビが、いきなり校内新記録を立ててしまったのだ。
それも、今まで他の種目では完全に普通の数字しか出ていなかったのに・・・。
そして加藤は、ぼうっと突っ立っているエリナの元にダッシュ!!
 「エリナちゃん、見たぁっ!?
 斐山君やってくれたよ!!
 あたし、あなたが斐山君のために怒ったんだってこと伝えたら・・・、
 それだけで、彼ったら・・・!!」
エリナの瞳は滲んでいる・・・。
指先や唇も小刻みに震えているようだ・・・。
 「・・・ホントに・・・優一さんが・・・?
 私のために・・・!?」
もう、エリナは泣き出す寸前だ・・・!

そしてそんな姿を気にすることもなく、優一は次の砲丸投げに挑戦する。
だがいくらなんでもこれは・・・、軽量級かつ165もない身長の彼ではどうにもならないはず・・・。
ギャラリーも一緒だ。
さすがにこの時間の最初の斐山の姿には、誰も興味を持ってすらいなかったが、
いまや男子も女子も、この競技ではどうなるのか・・・、
誰もが自分の残った種目を計測するのを忘れて、彼の動作に見入ってしまうのである。
 だから、本気を出すの嫌なんだよ・・・。
優一の本意は、中学の頃から変わっていない。
何故、自分がこれほどまでの能力を誇るのか・・・、
特にカラダを鍛えてきたつもりもない。
ケンカや無茶をする時には、その能力を存分に使うこともあるが、
基本的に弛まぬ努力なんてものは程遠い。
ただ、自分がその力を解放すると、周りの人間はついてこれなくなる。
勿論、単純な力比べだと朝田などには敵うわけもないだろう。
だが、彼はカラダで理解していた、
どうやって、カラダを動かせば最も効果的に力を生み出すことができるのか・・・。
そしてこれは本人も気づかぬことであるが・・・、
彼の本能的な筋肉の力の発揮の仕方・・・、
それは普通の人間が引き出すことのできない・・・筋力の限界までにそのパワーを
発揮することが可能であるのだ!