Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

第三十六話

 
夜・・・。
一つの屋根の下に若い男女が同居する・・・。
そんな危険なシチュエーションが心配されるのは山本依子に限ったことだけでもなく、
ほとんど全ての人間が同様の思いだろう。
普通なら警戒心バリバリで、女性の方がガードすべきなのだろうが、
肝心のエリナが全く無警戒・・・というよりも、そうなる事を望んでる節さえある。
ましてや、今日は、昼間あんな騒ぎがあったばかりだ。
風呂から上がったエリナは、しばしリビングで優一の両親と談笑した後、
母親に頼みこんで、自分で剥いたリンゴを優一の部屋に持っていくと言い出した。
正直、子供の教育に悩み抜いていた斐山家に、
この明るいエリナがやってきたこと、それ自体は両親も嬉しいのだが、
いつ何時、最悪の事件が起きるかを考えると気の休まる暇もない。
今回も全力でエリナを心配する。
 「エリナちゃん、ありがとう・・・、
 でも、その、優一には・・・手を焼かされたり・・・困ったことはない?」
 「そんなことはありませんよ。
 すごく優しくしてもらってます!」
両親にとってはそれが意外で信じられない。
もっとも、心当たりもあるのだ・・・。
赤ん坊の優一を中央アジアの未開村から連れてきてしまったこと・・・。
そして、このエリナが優一の本当のルーツと関わり合いがあるのかどうか・・・。
父も母もそれを確かめる事を恐怖している・・・。
そう、彼らがなるべく考えないようにしていたもの、
本当に恐れていることはその事なのだ。
曲がりなりにも15年間・・・幸せ・・・? いやこれは幸せなのだ・・・。
子供のいない自分たちに授かった不思議な子供を・・・。
どんなに子どもが不良と呼ばれようと、
この家庭から笑顔が消えていようと、優一がいなくなることなど考えられない。
そのため、「真実」をエリナに聞くことの勇気を持つことなどできなかったのだ、
母親は、このかりそめの幸せが崩れる事こそを恐れている・・・。