Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

16.朱武を導く者たち

 
一方、師の李袞はしばらく考えていたようだが、隣の朱武に目を合わせてから宋公明に向かった。
 「実を言いますと、宋大人・・・、
 朱武は・・・この子には、
 私以外にもう一人、武術の師と言える者がおりましてな・・・。」
 「ほう、それは初耳ですな、それで・・・?」
 「それは今から10年近く前になりますが、
 その者が私と朱武に、こんなことを言っていたのです。
 『いずれ朱武は、選ばれた使徒として戦いの世界に足を踏み入れることになるだろう、
 ・・・もしその時が来たら、朱武、お前に徴が訪れる、
 その時が戦いの始まる時だ、』・・・と。」
宋公明は真剣な表情で、李袞の話に耳を傾ける。
 「非常に興味深い話ですな・・・。
 その男とは予言者だとでも?
 いえ・・・それより、もしかしてその男が夢の発信者なのでしょうか?」
李袞は確信を以て、それを否定する。
 「いえ、それはあり得ないと思います。
 その男の拳才は、私より遥かな高みにある純粋な武術家ですので・・・。
 それに、その武術家が話していた時は、私も聞き流していた部分もありましてね、
 それでその男が去ってより、しばらくして、
 朱武が夢を見はじめました・・・。
 私はそれを見たことはありませんが、その内容は、
 以前、その立ち去った武術家が言っていたものに近いものでした。
 私もそれで、その男の話と併せて気になりはじめまして、
 イギリスのかつてのツテを頼って、
 『四人の使徒』と『デミゴッド』なる存在については、
 かろうじてではありますが、多少なりの知識を得ることだけはできたのです。 
 ただ、だからと言って・・・。」
そこへ朱武は、両手を頭の後ろにあてがい、行儀悪く背中をゆする。
 「わかってるよ、先生、
 たかだか、武術に強いだけの小僧が、
 そんな血生臭い世界に足を踏み入れられる訳がないってんでしょ、先生?
 オレが一番よくわかってるよ、
 だから自分のいる世界が変わる転機をオレは待っている。
 ・・・でもそれは宋大人の部下って形じゃダメなんだ、
 それじゃあ身動きが取れなくなる・・・。
 オレが羽ばたくためには、極力しがらみを無くさないといけないんだ・・・。」