Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

18.追憶する李袞、かつての死闘に思いを馳せる

 
帰り道、林沖に車で送られた後、朱武と李袞は道場に戻っていた。
 「どう思う、朱武、あの宋大人を・・・。」
 「どうって・・・まぁたいしたもんだよ、
 初めて会ったこのオレにあんなことを言い出すなんて、
 よっぽどのバカか器が大きいのか、それともその場限りの嘘つきなのか・・・。」
 「ふむ・・・、だがあれであの方は、この地域一帯で莫大な信用と権力を有している・・・。」
 「なら、それこそ、国家級の器かタヌキかってとこなんだろうな、
 オレの役に立ってくれるってんならそこは利用させてもらうよ・・・。」
 「宋大人の見極めは私の方も注視しておく・・・。
 それまでは朱武、お前ももっと慎重にあるべきだ、
 いくらお前が強くとも、銃や毒に勝てるわけはない・・・!」
 「先生、わかってるよ、物騒な話はやめろよ~、
 それに今の話、梨香には・・・。」
 「勿論だ、この後、宿舎に戻ったら、彼女には、ごちそうでも食べさせてもらったと、
 言っておくといいだろう、お土産残ってるのだな?
 なら仲良くみんなに配るといい。」
 「ああ、なら、オレはこれで失礼します、お休みなさい、李袞先生。」

そして朱武は自らの部屋へと戻っていく。
李袞は一人、静かに椅子に座って過去を思い出していた。
 「・・・もう10年以上になるのか・・・、
 朱武と梨香が、あのドイツ人によって海を渡ってここに連れてこられてから・・・。」

李袞は誰にも言ってない事がある・・・。
朱武本人にすら・・・。
朱武が中国人でない事を・・・。
いや、正確には不確かではある。
単に、李袞は朱武の本当の父親を知っているに過ぎない。
母親は中国人の可能性もあるが、どんな人間か知る由もない。

聞いていることは、既に朱武達の母親が、南米の小さな村で子供二人を残して殺されたということ、
父親はそれ以来、失踪して行方不明・・・。
その父親については、李袞は面識があったからこそ、外国人の朱武達を受け入れた・・・。
だが、あの家系・・・
 血なまぐさい血筋に生まれた男の遺伝子を継ぐ朱武達も、
 やはり、戦いと殺し合いの連鎖から逃れられないのか・・・、
そう思うと、李袞はかつて自ら投じていた戦いの痛手・・・。
その胸に手をあて、遠い過去の惨劇を思い起こしていた・・・。