Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

忌まわしき刑場

 
 「何言ってるのっ!?
 あたしは誰も恨んでなんかいないっ!
 元の暮らしに戻れればそれでいいのっ!
 ・・・ねぇっ! お父さん! しっかり! ねぇってばぁっ!
 お願い! 返事してっ!
 これで家に帰れるんだよっ!?
 ねぇっ!
 お父さんっ、お父さんっ、あ、ぅああぁぁああっ~っ!! 」

そして父親の瞳の焦点は、娘から離れ、
どこか・・・宙の一点で固まってしまう・・・。
もう瞳孔も変化することはない・・・。
その口元は、娘の言葉を聞いて、幾分和らいでいるように見える。
王宮内の医師アジジも、険しい顔をして父親の手首を取るが、
やがて残念そうな顔をして首を振った・・・。

 刑場内はフラアの泣き声だけが響いていた。

その他の兵士や役人の出す業務上の声は、ここではもう雑音のようなものだ。

ツォンはキントクラウドから降りると、フラアの後ろに佇むことしかできなかった。
アイザスとディジタリアスが、恐る恐るツォンに驚愕の表情で挨拶に近寄るも、
まっとうな反応だってできやしない。
フラアの揺れる背中を淋しそうに見つめるだけだ。

やがて、フラアの母親と、父親は担架に運ばれて、
王宮内の最短の医療施設に運ばれる。
もう、父親に治療の必要はないが、
母親だけでも・・・。
彼等は一団となって、この悲劇の舞台・・・法王庁の刑場から消えてゆく・・・。

いずれ、フラアも王族として、この王宮内で然るべく地位に就くのであろうが、
この忌まわしき場所に、彼女が近寄る事は、もう二度と決してないに違いない・・・。