Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

そして・・・

 
時刻は既に真夜中に近い。
だが、この部屋では誰も、眠りにつく準備など出来やしない。
数人の医療スタッフが全力を尽くして、フラアの母親の治療につくも、
この時代の医療レベルでは出来ることはたかが知れている。
治療室には二つのベッドが並べられ、
片方には、今や物言わぬ父親の遺体が、頭からすっぽりシーツをかぶせられている。
そしてもう片方には荒い呼吸で、カラダを小刻みに揺すっているフラアの母親がいた・・・。
今の常識では、面会謝絶の状態であろうが、
もう担当医も長年の経験で、この患者がこれ以上もたないという予想はついていた。
感染症の危険の認識より、母娘の最後の時を過ごさせてやるべきだと判断したのだろう、
フラアが母親に寄り添い、その手を握りしめ続けている事を禁止させるような事もしない。
それどころか、少し離れたところでは、
ツォン・シーユゥ、ディジタリアス・・・そしてアイザス王までもが責任を痛感して、
フラア達の様子を見守り続けていた。
ディジタリアスのみ、もう立ち続けている事ができないので、
安楽椅子に座らせられている。

既にこの家族は、何の罪もないのに二人の命を失っている。
母親の方は、まだ体力があったのか、それとも拷問もギリギリだったのか、
この時間まで命を永らえさせていたが、
既にその顔には死相が浮かんでいる。
だが勿論フラアに、そんな事を認めることなど出来やしない・・・。
 「・・・お母さん、もう、大丈夫だからね?
 だから気をしっかりしてねっ・・・!
 きっとよ、・・・きっとだからねっ!」

医師たちは既に出来得る限りの治療を施した後である。
今夜が峠、と言うべきところなのだが、もう母親にその峠を乗り越える体力はない・・・。
やむを得ず、麻酔効能のある薬を投与して、
痛みと苦しみだけでも緩和させていた。
その分、意識もおぼろげになりかけてはいたが、いまだ娘に対し反応は保ち続けている・・・。