Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

母親達の願い

 
薬のせいか、母親の表情は意外と安らかだ。
土気色の顔に笑みさえ浮かべているように見える。
自分の娘が無事でいることに、満足を覚えていたのかもしれない。
そして母親は、娘の呼びかけに弱々しく口を開ける・・・。
 「まだ、・・・私を母さんと 呼んでくれるのかい・・・?」
恥も外聞もなくフラアの髪は左右に振り乱す。
 「何言ってるのっ! あたしの家族はお母さん、お父さん・・・それにお兄ちゃんだけよっ!
 王族だか何だかなんて知ったこっちゃないわよっ!」
 「そんなことをお言いでないよ・・・、
 きっと・・・お前の本当のお母さんも、今の私と同じ気持ちだったのかねぇ・・・?
 お前が元気でいてくれれば、何も心配ない・・・、
 満足だよ・・・。
 私たちは幸せだった・・・、
 そして、これからお前には、お前にふさわしい舞台がある・・・。」
 「ダメっ! お母さん! おねがい・・お願いだからそんな事は言わないで!?
 私、お母さんの子供がいい! 
 贅沢なんかできなくてもいいからあの家でみんなで暮らしたいっ!
 帰ろう!? ね、帰るのよぅ・・・! またみんなでご飯を食べようよぅっ・・・!」

母親は少し困った顔をすると、
必死に首を動かし、その視線をアイザス達に向ける。
 「あ、あの・・・王様・・・。」
この状況で身分の違いなどに拘るほど、空気の読めないアイザスでもない。
ディジタリアスに視線を一度送ると、すぐにベッドの方へ足を一歩踏み出した。
 「余はここだ・・・、
 何なりと申してみよ・・・!」
 「あ、ああ、ありがとう、ございます、
 これから・・・フラア・・・フラア様は・・・。」
 「安心するがよい! もう誰も彼女に危害を加えさせはしない!
 彼女は弟ディジタリアスに次ぐ、王位継承権第二位にいる立派な王族なのだ!」
実際、それを断言できるのは、王統府の高官たちの慎重な会議の承認を得てからの話になるが、
ここまで来たら、それが覆えることはないだろう。
王宮の者にとって、それ程の衝撃的な展開なのだ。