Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

地母神デメテル 32

 
マリアとサルペドンは、少し離れた位置のまま、互いに視線を交錯させる。
断る理由は・・・それ以上、見当たらない。
それでも、戸惑ったままでいると、デメテルはサルペドンを指で呼び寄せ、
彼の耳元に小さな声で囁いた。
 「・・・けじめぐらいつけよ。」
もちろん、それは他の人間には聞こえない・・・。
だが、サルペドンはその言葉に思うところがあったのか、
静かに・・・、
そして何か納得したかのように、デメテルの案内の者に付き添われてその場を離れる・・・。
デメテルはサルペドンからそれ以上、興味を無くし、
再び宴席を盛り上げようと、ノリの良さそうなミィナや酒田に声をかけ、
楽しそうに場を支配し始めた。
だが、彼女の胸中でも、本当は何か別の事を考えていたのかもしれない・・・。
遠い過去の思い出・・・。

サルペドンは一度だけデメテルを振り返った。
それも、すぐに、視線を前方に戻し、自分を案内する男性の姿を不審に思う。
・・・どことなく他の村の人間の格好と趣を異にする。
 「キミ、・・・少し尋ねるが、君はこの村のものか?」
男は歩いたまま、軽く後ろを振り返って、サルペドンの問いに答える。
 「いえ・・・私はここより、少し西に離れたクノッソの者です。」
その単語を聞いた瞬間、サルペドンの足が止まる。
 「・・・クノッソ・・・だと?」
だが、目的地はすぐそこのようだ、
男はそのまま10メートルほど進むと、目の前にある大きな天幕の前で一礼した。
 「こちらでございます、
 本来はあなた方、スサが黒衣のデメテル様に害為す存在であった場合、
 この村を守るために参ったのですが・・・どうやら平和裏に事は収まるご様子ですので・・・。
 デメテル様は我が主に、お気遣いをいただいたのでございます。
 私めはこちらに控えておりますので・・・では。」
しばらくサルペドンは動けなかった。
自分を案内した男の背後・・・天幕の入口の脇には、美しい装飾をなされた白銀の楯と、手槍・・・。
サルペドンは近づくと、天幕に入る前にそれらの武具をしげしげと見つめる・・・。
 「アイギスの楯・・・。」
サルペドンはその楯に見覚えがあるらしい。
そのまま、彼は意を決して天幕の中に入る。

もうサルペドンは全てを理解していた。
そこに誰がいるのか、誰が自分を待っているのか、自分が決着をつけねばならない事は何なのか・・・。
彼を待っていたのは一人の女性・・・。
170センチを超えるだろうか、それも顔が小さく瞳が大きいため、余計に背は高く感じる。
デメテルやアルテミスとは対照的に、ほっそりとした筋肉質なカラダ・・・。
そして見るもの全てを平伏させるような高貴なるオーラと、美しき威厳。
サルペドンは、彼の喉から出る言葉を抑える事は出来なかった・・・。
 「パラス・・・アテナ・・・。」
名前を呼ばれた女性は、瞳を潤ませて、彼の・・・サルペドンの本当の名前を告げる。
 「とても・・・とても長すぎる時間が過ぎ去ったわ・・・、
 大地の主・・・ポセイドン・・・。」