Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

守護女神アテナ 9

 
さらっと、サルペドンは嘘を言う。
勿論、これまでの経緯をアテナに話したという部分は嘘ではない。
肝心なことを思いっきり、隠して平然とした顔を作る。
自分が数十年も嘘をつき続けていた事に罪悪感は感じつつも、
実際となると、堂々とした態度をとれる。
そこはさすがの老練さか。
サルペドンの本当の正体を知っているマリアだけが心配そうに、
彼の顔を見つめるが、
サルペドンは他人に分からない程度にマリアに首を頷いて見せた。

タケルは手を離した後も、アテナの鋭い視線に晒されたままだ。
いつまでもそれに耐えられる筈もない。
というより、タケルはこの手の視線が苦手だ・・・。
大抵の初対面の女性は、自分の体格に気後れして、真正面からタケルを見つめる事などできやしない。
・・・ただ、こんな視線に慣れていない為か、
まだタケル自身気づいていないが、
彼はこの視線に見覚えがあるはずなのだ。
自分を真っすぐに見据える高貴な瞳を・・・。

 「タケルと言うのですか・・・?」
とても上品な声だ・・・。
武器を手にする者とは思えないほどの物腰の柔らかさだが、
むしろそのアンバランスさが、彼女の絶対的な威厳を醸し出しているのだろう。
その問いや命令に逆らえる者など、いる筈もない。
 「は、ハイ!」
アテナは自分の指先で、タケルの腕の筋肉や胸板の厚さを探る・・・。
デメテルの時のようなエロチックさはまるでない・・・
まさに彫刻家がその作品に触れるかのように、タケルそのものを観察してゆくようだ。
 「・・・素晴らしい肉体ですね・・・。
 単に筋肉の衣を纏っただけではない・・・。
 柔軟性にも敏捷性にも優れている。
 まるで、細胞の一つ一つが光り輝くよう・・・。
 ポセイドンの血を受け継ぐと言う話、
 確かに信ぴょう性が感じられます・・・。」
鍛えまくった自分のカラダを評価されて、嬉しくないタケルではない。
ここら辺で少し緊張を解いて、彼の心は油断をする。
この先、かなり真剣な事態に陥ると言うのに。