ゼウス対ポセイドン 9
スサの一団に衝撃と困惑が走る。
アグレイア神殿の惨劇は、タケルやスサには何の関係もない。
あの時の状況から、混沌の神とか言うカオスの手によるものだとは推定できたのだが、
実際、死闘を演じたタケルは、あの時点で神殿に起きた殺戮を知らない。
全てを知った時には、既にカオスは物言わぬ死体になっていたのだ。
本当にカオスが女神アグレイアを殺したのか、
また仮にそうだとして、
如何なる理由があってそんな凶行に及んだのか、結局のところ想像すらできなかったのである。
「ちょ、ちょっと待ってくれっ!
オレ達はアグレイアや神殿の連中を殺していないっ!
戦ったのはカオスっていう若いオリオン神群だけだっ!
オレ達が神殿に入ったときには、みんな殺されていたんだっ!!」
虹の女神イリスの眉がヒクついている・・・。
明らかに今のタケルの言葉に、さらに怒りのボルテージをあげてしまったようだ。
「・・・もっとまともな嘘をついたらどうなの、野蛮人・・・!
私たちの仲間にカオスなどという者は存在しないし、
お前たち以外にアグレイア様に凶行を働くものなどいるものかっ!?」
「そ・・・そんな事言ったって・・・!」
やはりサルペドンがフォローするしかない。
「虹の女神アグレイアよ、
私たちも混乱しているんだ。
何ゆえ、アグレイアが殺されなければならなかったのか・・・。
そして、そなた達が、地上からやってきた我らを信用できないというのも仕方ないとは思う。
だが、この件に関しては濡れ衣だ。
我らはトモロス、シルヴァヌス、アレスを討ち倒してきたが、
今更、他の神々を殺していないなどと、嘘をつく必然性もないだろう?」
「そんな事は私どもの知ったことではありません。
あなた方が我らの敵であることに、些かの間違いもないでしょう?」
「だが、イリスよ、
ゼウス神殿には、全てを見通すモイライがいるだろうっ?
彼女たちに聞いてみてくれれば判るはずだ!
我らは不要な戦いや殺戮を好まないのだ!」
だが、イリスの返答は更に絶望的だ。
「・・・それも何か策略を巡らせての言葉でしょうか、ポセイドン様?
アグレイア神殿には結界が張り巡らされ、
モイライの目を以ってしても見通すことはできませんでしたよ。」