Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

Lady メリー第一章 第八話

 
 もし、第三者がそこにいたら、この奇妙な光景はどう見えるのか?
テレビと、男の一直線上の天井に「這いつくばっている」彼女の姿を。
そして、細い・・・細い腕を一つの関節ごと延ばしていき、
そのか細い腕の先には、
さらに細い、アラベスク文様の装飾のある鎌を床に延ばしている。
形容するならば、毒蜘蛛が獲物を捕まえた時に、
蜘蛛の巣を伝って降りてくる様が適当かもしれない。
終いには、天井に接しているのは、
つま先と両膝のみで、細い身体は床に向かってぶら下がっているだけになっていた。
「彼女」は鎌を使ってゆっくり・・・スローモーションのように着地する。

・・・音はしない、
だが、男にはそれがわかった・・・、
自分の命に絶望的な死を与えようとする凶悪な気配を。
全身鳥肌が立ち、
呼吸は不規則になり、
口の中は鉄の味しかせず、
ナイフを握っているはずの手は汗でビショ濡れだ・・・。

・・・どれぐらいの時間が経ったのか・・・
いや、ほんの数秒だったのか・・・、
男はあらん限りの叫び声を上げ、ナイフをかざして振り返った!

彼は見た! 
目の前にいる人の姿をした「彼女」を。
不気味に光る鎌を持ち、薔薇の刺繍のドレスを纏い、
肩のレースからは小枝のようにか細く白い肌が露わになったその姿を! 
銀色の髪は無機的に輝き、生気のない青白い頬、 
そして鏡のように全てを写すグレーの瞳、
この世のあらゆる美しさを備えながらも、
かつ、何者をも拒絶するかのような神聖な顔立ちを・・・!

それは、つい今しがた見たはずの、マネキン人形とは全くの異質なものだった。
眼球だけが、本物の人間のように小刻みに動いている。
男が口を開く暇も与えず、人形はその巨大な鎌を振りかざす。
 「うおぉぉぉっ!?」
男は必死で左手で鎌の柄をつかみ、反射的に右手のナイフを「彼女」に突き刺そうとした。
だが、何度彼女の頬に刃を立てても、
表面を傷つけるだけで、人形をひるませる事ができない。
それどころか、装飾鎌の力がどんどん強くなっていき、男の左手で支えきれなくなっていく。
 「なんでじゃぁ! なんでマネキン人形にこんな力があるんじゃぁッ!?」
男の声は悲鳴に変わっていた。
・・・そして人形は、獲物を見つめながら、独り言のようにつぶやく。

 「・・・わたし、 メリー・・・
 憎しみ、恨み・・・救われる事の無い苦しみ
 それが・・・わたしのちから・・・」