Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

Lady メリー第二章 第二十一話

私が振り返るのと、丸山の驚愕の咆哮、
どちらが先だったかは分らない。
丸山が顔を天井に向けたときには、既に人形は柱と天井に器用にしがみつき、
圧倒的に存在感のある不気味な鎌が、彼の首を射程距離内に収めていた。
・・・まるでカマキリがエモノを捕食する寸前のように。
次の瞬間、私が見たのは、丸山の咽喉に突き立てられる刃、
そして、そこから溢れる真っ赤な鮮血。
丸山は受話器を握り締めたまま、ドサッと床にその巨体を沈み込ませた・・・。

「人形」はゆっくりと床に舞い降りる・・・、
不気味なほど静かに。
私は再び絶望の恐怖に襲われた。
首が変な角度を向いたまま、足を引きずりながら・・・先ほどの鎌を携えて向かってくる・・・。
駄目だ もう 助からない・・・ 
それでも私は最後まで「生」にしがみつきたかった。
 「・・・お願いだ! 私は関係ない! たすけて・・・
 妻と・・・娘がいるんだ・・・生きてた時の 君と 同じように 可愛い娘が・・・
 私の帰りを 待っているんだ! おねがいだ むすめが 麻衣が泣いてしまう・・・ 」
私は泣き叫んだ。
自分の置かれた状況・・・目に浮かんだ愛娘の姿・・・
どちらによるものかは分らないが、両の瞼からはどんどん涙が溢れてきた。
その時、何故か泣きじゃくる麻衣と、「人形」の過去が私の脳裏で重なっていた。
見ればこの人形もボロボロなのだ。
・・・相次ぐ戦闘のためか、
薔薇の刺繍の黒いドレスはあちこち破れ、手足の関節も正常ではない角度に曲がっている。
銀色の髪はボサボサに乱れ、首もずれ足も引きずり、
その白い手足や端正なはずの頬の表皮は、石膏がはげてボロボロになっていた。
人形の目の下の、はげた石膏の跡が、大粒の涙を流した跡のようにも見える・・・。
 「怖かった・・・のかい・・・?」
私の口からは、その場の状況にそぐわない言葉が出た。
「彼女」は私を黙って見つめている。
 「苦しかったのか・・・? 今も苦しいのか・・・? メリー・・・?」
・・・人形は私の言葉を理解してるのか、全く聞こえてないのか、
その表情や仕草からは全く読み取れない・・・。
ただ一点、曲がった首の瞳が、
いつの間にか私というより、私の手元に注がれていることに気がついた。
私が握り締めているある物に。