Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

顔のない人形 その35

 「ぎゃぁぁあああ!!」
第二陣が部屋に飛び込んできた。
・・・タケルは全く動じない。
新たな獲物の顔面に非情な拳を叩き込み続け、掴んだ頭蓋を壁にぶち当てる!
 掌の中で硬いものが砕ける感覚・・・、
容赦ない丸太のような回し蹴りで一気に数人がなぎ倒される。
怒りに我を忘れたタケルの前では、誰もが枯れ木同然に砕け散ってしまう。
・・・まだ彼らに自我が残っていれば、最初の二、三人で逃げ出していただろう、
この騒ぎが収まったとき、果たして無事に日常生活に戻れるものが何人残っているのだろうか?
 「タケル!!」
応接室に残っていた者たちを片付けた美香は、タケルを追って廊下に出る。
だが美香は、目の前の悲惨な光景に足をすくませてしまった・・・。
ほとんど全ての人間が、肉塊のように床に転げていた。
この中でまだ息がある者はいるのだろうか・・・?
しかもこちらに背を向けているタケルは、未だに戦闘態勢を崩していない。
彼の間合いに入ろうとする者がいれば、再び野獣のような攻撃を繰り返すであろう。
美香はショックを受けながらも必死に弟を呼びかけた・・・。
 「タケル! 待ちなさい!! 私の・・・私がわかる!?」
時間がゆっくりと流れる・・・、
タケルはようやく首を後ろに回した・・・。
まるで鬼のような形相だ、
タケルがこんな恐ろしい目をするなんて・・・。
 「・・・タケル、落ち着いて・・・、タケル・・・あなた・・・。」
それ以上、美香は言葉にはできなかった・・・。
ただ、ゆっくりと弟に近づき、そっとカラダに触れる事だけしか・・・。
美香の指の感触と温度を感じ取り、ようやくタケルは我を取り戻したようだ。
呼吸を少しずつ整え、唾を飲み込む。
気持ちの整理などつけられやしないようだ。
 そうだ・・・、昔から。
 こんなに激昂したタケルを見たのは初めてだが、子供の頃からタケルの感情は激しかった・・・。
 それを見るたびに自分は冷静さを・・・、
 どんな時でも落ち着かなきゃ、と自分に言い聞かせてきたのだ。
 お父さんとお母さんが一緒に死んだ時も・・・。
 「・・・タケル・・・。」