Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

緒沢タケル 伝授8

 
 さて、タケルは中国拳法用の、麻が入った生成りの道着に着替え終わった。
下は黒のズボンで、靴は・・・それ用のがあるが、剣道場には履いて入れない。
裸足で道場に上がる。
昔やってたように、一礼して、中で待っていると、
すぐに白い袴に着替えた美香もやってきた。
・・・この姿を見るのは何年ぶりだろう?
凛々しい・・・という言葉が相応しい。
薄い化粧に短くそろえた黒髪は、誰しも魅了されるに違いない。
美香は、竹刀も木刀も持たず、先ほどの長い箱を抱えたままだ。
 「・・・じゃあ、美香ちゃん、オレは残念だけど・・・。」
 「ええ、ありがとう、亮・・・。
 それじゃあ、済んだら声をかけに行くね?」
 「ああ、ごゆっくり・・・、
 タケル・・・しっかりと覚えろよ・・・。」
白鳥はゆっくり扉を閉めると、屋敷の母屋へと向かう。
その気になれば、各所にカメラをしかけて、
緒沢家の秘伝を盗み見ることも不可能ではないのだが、
彼も格式を重んじる昔ながらの人間だ、そんなことまでして見たいとも思わない。

・・・今まで部外者であるタケルも、その部分は気にもかかるところでもある。
 「・・・なぁ、美香姉ぇ、
 門外不出って言ってもさぁ、なんだかんだで他人の目に触れる事もあるんだろう?
 実際、お題目だけじゃねーの?」
 「そうね、・・・時代が時代だしね、
 現当主、緒沢美香としては、あまり神経質になることもないとは思っているわ。
 大体、これから伝える物は、見よう見まねでは決して真似できないものだから・・・。
 その分、タケル・・・生半可な気持ちでは覚えられないわよ?
 ・・・集中!」
言葉の最後に美香は大声を出した。
タケルの気持ちを引き締めるためだ。
美香の目が真剣そのものになっている・・・。
 「タケル、正座!」
号令をかけた美香も床に座る。
女性っぽい座り方でなく、膝を開き気味にした男っぽい座り方だ。