Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

顔のない人形 その3

 「・・・おい・・・おい! 今日子! 大丈夫か!?」
タケルの声でふっと我に返る今日子。
・・・一体自分の身に何が・・・?
 「・・・あぁ、タケル・・・あたし、今、意識無くしてた・・・?」
 「何、言ってんだよ? ほんの一瞬、ぼーっとしてただけだろ?
 ・・・それよりこれからカラオケのバイトだろ? 大丈夫なのか?」
タケルも、外見はチャラチャラしているが根は真面目だ、
例えケンカしたって、彼女の様子が変なら放っておけはしない。
 「・・・あ・ああ、カラダは大丈夫だと思う、だけど、何であんなモンが聞こえるんだ・・・?」
 「おまえ、クスリとかやってねーだろうな?」
 「やってねーよ!」
 「・・・ならいーけどよ、帰り迎えに行ってやろうか?」
 「さんきゅ・・・! でも大丈夫だよ、ヤバかったらメール送るよ・・・。」
 「そーか、ムリすんなよ・・・。」
・・・電車は吉祥寺に着いた。今日子のバイト先はここで降りる。
プーのタケルは次の三鷹までだ。
扉が開き、今日子が出て行く。
彼女は振り返ってにっこり笑ったが、その表情は不安そうにも見える。
タケルは最後まで彼女の姿を追っていたが、
彼の乗っている電車は、次の駅へと動き出してしまった。
バイトの時間までまだ間がある・・・。
今日子は駅のホームで自分の携帯を取り出した。
 今日、何度も聞いたあの女の声は何だったんだろう?
しばらくして、今日子は恐ろしい考えが頭に浮かんだ。
 ・・・ここにかけ直したらどうなるんだろう?
 今更、ワン切りでもないだろうし、相手は肉声だ。
反対側のホームを電車が通る・・・大勢の乗客のざわめきもうるさい・・・。
だが彼女の耳には、その騒音より自分の心臓の音の方が大きな音に感じられた。
先ほどの着信の番号を指定し、ダイヤルボタンを押す。
 ルルルルルルル・・・、ルルルルルルルル・・・ガチャ、
・・・声は聞こえない・・・雑音のようなものが聞こえる・・・。
だがすぐに・・・周りの騒音にも関わらず、今日子の耳にはあの女性の声が聞こえてきた。

 『・・・もしもし、私メリーさん、
 ・・・ありがとう、お友達になってくれるのね!?』 

・・・その日、バイト先のカラオケ店に、彼女が出勤する事はなかった・・・。