Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

顔のない人形 その37

 「・・・美香姉ぇ・・・他はいいの?」
美香がメールを打ち終える間際、タケルがおどおどしながら美香に尋ねた。
 「他って?」
そう言われてタケルは辺りを見まわす。
自分のしでかしてしまった事で、姉に責められるのを覚悟していたのだ。
・・・死人が出ていたら・・・。
美香にしてみれば、何を今更・・・とも思っていたのだが、
タケルを責めても仕方ない、
・・・第一、自分達の命だって安心できない状況なのだ。
 「・・・言ったでしょ、あなたのせいじゃないって。
 わたしもこの状況に神経がマヒしてきたのかもしれないけど・・・。
 それよりとっととカタをつけて・・・、
 目的を済ませたら、救急車呼んでさっさとここから逃げる!
 ね? まずは社長室へ向かうわ・・・!」
普段は品行方正の美香がとんでもないことを言っている。
バックレるつもりだ。
・・・確かにヘタをすると、タケルは殺人犯になってしまう可能性がある。
だが、タケルは気づいていない、
すでにこの事件は、警察が解決できるレベルではなくなっていることに。
美香はすでに事件の本質に気づき始めていたからこそ、
人命救助も後回しにせざるを得なかったのだ。
 「社長室・・・さっきの化け物が・・・そこに・・・?」
 「アイツがそこにいるかはわからないけど、首謀者かその手がかりはあるはずよ、
 ・・・いつ・・・どこからアイツが現われてもいいように・・・身構えておきなさい・・・!」
タケルは身震いした。
・・・だがすぐに・・・恐怖よりも先程の怒りを思い起こす事が出来た。
 どんな化け物だろうが絶対に許さねぇ・・・!
社長室は、はっきりと分るように表示されており、その部屋を見つけることは困難ではなかった。
部屋を前にして美香が尋ねる。
 「タケル・・・さっきの化け物・・・姿を思い出せる?」
正直、あの姿をあまり思い出したくはない、
だが忘れられそうにないほど不気味な物体であったのも確かだ。
 「・・・黒いワンピース・・・長い髪・・・槍か斧みてぇなもん持って・・・
 顔は・・・いや、顔はあったんだか見えなかったのか・・・、
 ああ、今日子が言ってたのはアイツか・・・。」