Lady Merry の日記

Yahooブログから引っ越してきました。

ヘファイストスの葛藤・語り継ぐネレウス43

 
そう・・・、そのサルペドンの怒りの矛先は、ヘファイストスに向けるものではない。
ここまでヘファイストスの心を屈折させてしまったゼウスの責め苦・・・。
あの男は巧妙に、ヘファイストスの心を掌握してしまったのだろう、
先代の命を使ってまでも・・・!

そしてその次に怒りの矛先は、他でもない自分自身に・・・。
もちろん、ヘファイストスが指摘したように、
地上に逃れたサルペドンは遊んでいたわけではない。
いつか、ゼウス率いるオリオン神群が、
地上に攻め上って来る事も想定して、スサを創り上げたのである。
とは言え、そう簡単に対抗できる勢力など作れるはずもなく、
代わりに近代科学を結集することで、一角の勢力を台頭させるにいたった。
しかし、サルペドンにはその時既に、一つの葛藤を生じさせていたのである・・・。

 もともとは地底世界の「人間同士」のいざこざ・・・。
地上の人間を守るという名目は在るものの、
別世界に住む者が、他人の世界を巻き込む行為それ自体が、既に道を踏み外しているのだ。
故にサルペドンは、スサを率いて地底世界に舞い戻ることも出来ず、
今に至ってしまった・・・。
この100年以上の長い年月の間で、どれほどの人々の思いが交錯したのか・・・。

そして今、その決着をタケルや他の人間に任さなければならないなんて・・・。
 大地を揺り動かす・・・それほどの能力を持ちながら、
 戦いには、味方を巻き添えにする為に、何の役にも立たない・・・。
サルペドンは己への怒り、無力感に苛まされていた。
自分に出来るのは・・・、
もはや・・・。
 
 「ヘファイストス殿・・・では、もう一つだけ・・・。」
 「うん? これ以上、なんじゃ? 何だというのだ?」
 「あなたは寛大にも、このパキヤ村の住人と、その信仰までも広い心でお許しになってこられた。
 その優しさ、謙虚さは地上の人間には向けられないというのか?
 彼らも村人も・・・同じ人間なのだぞ!?」