☆鍛冶神ヘファイストス
そしてこちらは、ヘファイストスとネレウスを連れた荷車の一団。 先頭は5~6頭の馬に率いられ、比較的とは言え、なだらかな道を次の町まで走り続けている。 夜道であるが故に、それほど飛ばしてもいないようなのだが・・・。 一際大きい荷車の中には鉄でで…
サルペドンの怒りは凄まじい! 「・・・奴らは! 敵である我らスサではなく・・・、 これまで忠誠を尽くしてきたヘファイストスを罰しようというのか!? 直接の相手である筈のポセイドンでもなく! 先代と二代に渡って巻き込まれただけの、 ヘファイストス…
言わんこっちゃない! まだ無理をできる体ではないのだ。 「いい、お前は寝ていろ、 私が行く!」 すると、廊下から聞こえてきた急ぎ足の音が部屋の前で止まる。 ノックの嵐! 「どうした!? 鍵は開いている!」 『その声はサルペドン様ですね? この村のバ…
タケルの後ろ向きな考えを、否定も肯定もできるわけではないが、 サルペドンは一度、ネレウスの話を思い出していた。 「タケル、私は昼間のネレウスの話を・・・。」 「ん? なんだっけ?」 「私はポセイドンの力を『大地を操る力』として認識していた。 具…
しばしの沈黙がお互いにあった。 サルペドンの言葉に納得したタケルは、 やはり当面の心配事に心を戻していた・・・。 ここにはスサで長年、首脳的立場にいたサルペドンが一人で立っている・・・。 何か・・・自分に起きたこの変化に、 何でもいい、何か自分…
部屋の扉が開けられる。 入ってきたのはサルペドンだ。 「・・・おお、サルペドン、みんなどうしてる?」 「目を覚ましていたか、タケル、 もう、夜遅いしな、村人たちの厚意で、それぞれ屋根のある場所で休ませてもらってるさ、 お前も、怪我とか大丈夫そう…
タケルの眼球がビクビク動く。 一度、タケルは深呼吸して、意識を散らした・・・。 思ったとおりだ・・・。 目を覚ましてからというもの、 精神力というものに対して、タケルは自分なりに考察を続けていたのだ。 オリオン神群すら時に凌駕する天叢雲剣の雷撃…
夜になった。 タケルは、火傷や裂傷の治療を一通り受けたあと、 村の宿泊所に運んでもらって爆睡かましていた。 ・・・おっと、もう目が覚めていたか、 毛布の中から左腕を抜いて、自分の顔にかざしてその手のひらを観察しているようだ。 ・・・別にただの左…
「き・・・聞け! ポセイドンの血・・・血筋のものよ・・・、 血筋のものよ。」 あ・・・!? 「ここ・・・ここから先、は、 オリオン神群・・・首脳・・・ ハデス様と、全知・・・全能のゼウス様おわすピュロスの都・・・ あの程度の雷撃で・・・敵うとでも…
呆気に取られるタケルとヘファイストス、 すると、ネレウスは両者の間に入り込み、 あろうことか倒れているヘファイストスに跪いてしまったのだ。 「・・・もう、もう十分でございましょう、ヘファイストス様、 勝負は決しました。 これ以上やれば、 先代の…
「ぐばらぁがががががあっばばばばばっ」 声にもならない悲鳴がヘファイストスのカラダから発せられる! いや、確かにヘファイストスのカラダは、直接の雷撃を避けたようだ、 その威力は彼が装備している金属物に集中・・・。 だからとて無傷のわけがない。 …
ヘファイストスの紅蓮の炎がタケルの左手に届かないっ! まるで・・・目に見えない壁がそこにあるかのように・・・! これこそ、地上で言う観念能力の一つ、精神障壁・・・サイコバリヤー!! ヘファイストスが絶叫する・・・。 「き、貴様っ!? な、何故だ…
最大規模にまで吹き上がったヘファイストスの炎は、 スサの人間からタケルの姿を見失わせる。 それでも、周りに遮蔽物のないこと、 タケルが動けないことを鑑みれば、 今や最悪の結果になってしまったことを疑う者もいない・・・。 サルペドンも取り乱して、…
パラス・アテナ・・・。 かつて、ポセイドンやデメテル、ヘファイストスと志を共にしていたと言う女神がいたならば、 この状況を脱することができたのではないか? いや、それが叶わなくても、 女神アテナの「アイギスの盾」があれば・・・。 現実のこの場で…
タケルのカラダが戦車に跳ね飛ばされる!! 備え付けの槍に脇腹も切り裂かれたのか、 あっという間に、タケルのユニフォームが赤く染まっていく・・・。 手も・・・足も出ない・・・。 未だ天叢雲剣を使う精神力は残っているが、 それを振るえるチャンスが作…
「タケル殿は分が悪いようですなぁ?」 「・・・むぅ・・・!」 「サルペドン様、一つ伺ってよろしいでしょうか?」 「なんだ、こんな時に!?」 「いえいえ、あの・・・先ほどもお聞きしましたが、 タケル殿の胸の首飾り・・・、 その目的は本当に血筋を明…
タケルのパワーと反射神経なら、 ヘファイストスの槍を押さえつけることも可能だろう、 その気になれば素手で槍の柄を掴んで、 ヘファイストスの攻撃を封じ込めることも難しくない筈だ。 だが、カラダを止めた瞬間、 ヘファイストスの炎の餌食となる。 仮に…
「ああっ!?」 驚愕の叫びをあげたのはマリアたち、 ヘファイストスとタケルが交錯した時、槍をかわすのには成功したものの、 戦車の突進までは避けられなかったのだ。 車体の一部に足をぶつけたのか、 あまりの激痛にヨロヨロと膝を抱えて、その場から逃れ…
あああああ、あの馬鹿ぁっ! 心底呆れたのはミィナたちだ。 ところが、 実を言うとヘファイストスも同じ思考レベルのようだったらしい。 「そ、その手があったかっ!」 慌てて手近に屹立している他の槍に、今頃左手の炎を浴びせてゆく。 自分の作戦を全く煮…
パイロキネシス・・・地上であるならこの単語が、ヘファイストスの能力名として相応しいだろう。 鍛冶の神であるが故に、炎の属性を備えた彼らの一族が発達させてきた能力だ。 落ち着け・・・。 勝てる道は・・・? あの戦車に数多くの武器を積んでたとして…
ちょうど、その時、この会場に老人ネレウスが到着していた。 お付の者と共に近づいた場所は、他でもない、サルペドンの傍だ・・・。 「・・・始まっておるようですな?」 「ネレウス・・・! そなたの本心は・・・何を望む!? ヘファイストスが勝とうとも、…
大気を切り裂く衝撃音! この場にいる全ての者の目が眩む! それでもスサの殆どは、黒焦げになったヘファイストスの姿を予想したはずだ! ・・・だが。 一瞬、タケルの目は信じられないものを見たかのように、 剣を持つ腕を振り下ろしたまま固まっていた・・…
すでにヘファイストスは優柔不断な顔を消し、 覚悟を決めたか、一人の戦士の顔つきになっている・・・。 この距離ではまだ、天叢雲剣は届かないが、 接近しつつ精神力を爆発させ雷電を放つ! タケルは右腕を構えてエネルギーを溜め始めた・・・! 一気に勝負…
・・・そこは、パキヤ村で最大の広さを持つ広場なのか、 草野球のグラウンド並みの広さの平地・・・。 一対一の決闘の場としては少々広すぎる気もする。 村の男たちが速攻で柱を立てて行き、周囲をロープで張っていく。 そういえば、地下世界に下りてここに…
だが・・・。 「恐れながら・・・。」 「構わん、ネストール、申せ、申してみよ。」 「私も戦わずに済むのなら、それが一番好ましいと思うのですが・・・。」 「ですが? ですが何じゃ?」 「問題はあの方々・・・スサがゼウス様に勝てるかどうかの話なので…
このやり取りを固唾を呑んで見ていたタケルたち、 そして今や、彼らが視界に映るのは、 自陣へ戻ろうとするサルペドンと、 車椅子のような戦車を、落ち着かなくゴロゴロその場で動かし続けるヘファイストス。 「サルペドン、どうだ? あいつ、考え込んでるの…
サルペドンはヘファイストスの反論を待たずに畳み掛ける。 「私は短い時間だが、 この世界の様々な人間に会ってきたぞ? トモロスやアレスの尊大な態度、 心優しきアテナやデメテル・・・、 陽気なデュオニュソスや、高慢ちきなヘルメスにアルテミス・・・、…
そう・・・、そのサルペドンの怒りの矛先は、ヘファイストスに向けるものではない。 ここまでヘファイストスの心を屈折させてしまったゼウスの責め苦・・・。 あの男は巧妙に、ヘファイストスの心を掌握してしまったのだろう、 先代の命を使ってまでも・・・…
その瞬間、ヘファイストスの槍がかざされた! 「黙れ、黙れぃっ!!」 穏やかな話し合いと思われていた空気が一変する。 タケルは目の色を変えて、サルペドンの元へと走り寄った。 だが、サルペドンは背後に近づくタケルに手を伸ばし、彼の接近を制止する。 …
一人、武装して戦車に乗った風采のあがらぬ男、この男がヘファイストスか。 「ヘファイストス殿とお見受けする。 私は地上より来たスサの副司令官カール・サルペドン。 向こうにいる剣を携えた者が緒沢タケル、 もしあなたと戦いになるのなら、彼が戦闘を行…